その昔といっても、30年ぐらい前の話。
友人達3人で浜松方面に一泊旅行に行った帰り道。東名高速でのできごと。ドライバーのA氏がトイレと行きたいし、疲れたから休憩したいと言い出した。
だいぶ長い時間運転していたし、夜も遅くなってきたので
「じゃあ、どこかインターで夕飯でもとるか。」という話になった。
すると後部座席に座ってたB嬢が、
「見て、足柄インターって書いてあるよ。あそこにしない?」とサービスエリアの標識を指さした。
もちろん、誰も異論はない。私もちょうど疲れてきたところだったので、「いいね。足柄~」と言ったのを覚えている。
車がサービスエリアの駐車場に止まると、すぐに私たちは異変に気が付いた。
「あれ? なんか暗くね?」と誰かが言った。
車を降りてみると、月のない空にはきれいな星空が広がっていた。
「停電、停電だよ。」と隣の車の人が声をかけてくれた。
普通は声を掛け合わない他人同士も、ある種異常で非日常の空間に放り込まれると急に仲間意識がはたらいて、話をしたりするものだ。
「でも、お店はやってるし、買い物もできるよ。」
と、その人は手に持っていた”缶コーヒー”を少しあげた。
サービスエリアの方を見ると、ぼーっと灯りがついているのが見える。
今のように、華やかなサービスエリアではない。何しろ30年前だ。駐車場+お土産屋+公衆トイレ、よくてちょっとした食べ物が手に入るぐらいのレベルである。
「まあ、とにかく行ってみよう。おなかすいたよ。私」とB嬢。
彼女は怖いとかいう概念が薄く、食欲が最優先の女子だ。
私は真っ暗の中に、まるで行燈をともしたような薄明りで輪郭がボーっと見える店にちょっと違和感を感じたが、すぐにみんなについて歩きだした。
店に入ると行燈を灯したようなと思ったのはあながち間違えではないことに気づく。ろうそくを何本か並べるかっこうで営業していたのだ。
「なんだか幻想的だな。」と言った私に対し、
「俺ちょっとトイレに行ってくるわ。」とA氏。
よほど我慢をしていたらしい、暗いのもなんのその、そそくさと速足で歩いていく。
「暗いから気をつけろよー。」と私が声をかけた時には、A氏はすでにろうそくの灯りの輪郭の外にいたらしい「おー」と声だけがかえってきて、彼の姿を見ることはなかった。
それ以来。。彼とは会っていない。。
となると本格的な恐怖話なのだが、そんなこともなく、彼は無事でかえってきて、B嬢と私は肉まんかなにか(覚えてはいない)でおなかを満たし、おまけにお土産の「だんご」だったか何かを購入し、車へ乗り込み家路へと急いだ。
しばらくしてからだった。
A氏が運転しながら「さっきのインター、足柄だったよな?」と問いかけてきた。
「うん。そう」と無責任にうなづく二人。
「あれ何?」とA氏が指さす方向には ”足柄IC”の標識…
「えっ?」絶句する私。
「なんか、そういえば、あのお店の男の子、みんなかわいかったけど、デビュー当時のチェッカーズみたいな頭してなかった?」と食欲の次に美男子が好みのB嬢が言い出した。
「やめろよー *チェッカーズって10年も前だよ。(その時点で、現時点では40年前)」
「私たちタヌキに化かされた?」
「さっき買ったお饅頭、まさか馬糞に変わってないだろうな?」
「やめてよー 私、肉まん食べちゃったあああ。」
まあ、当たり前というか、残念ながらというか、土産の饅頭が「馬糞」に変わることも、私たちがおなかを壊すこともなかった。
多分真相はこうだ。
休憩しようと言い出した時、”足柄IC”と標識を見たのはB嬢一人。彼女がそう言ったので、私たち全員が勝手に、そのサービスエリアを”足柄IC”と思い込んでしまったのだ。
多分入ったのは1つ前の”駒門IC”。男の子たちががかっこよく見えたのはこう言ってはなんだが、薄暗かったから。ろうそくの灯りで営業していたのは、きっとまだ自家発電装置を設備していなかったから。
まあ、そんなところだろうということで落ち着いた。なんか良い旅の思い出になったねと3人で笑いあった。
あれから30年、みんなは何をしているだろうか?と思い出していたところ、ふと変なことに気が付いた。私の記憶違いかもしれないが、そう言えばあの時、あの駐車場で車のヘッドライトの灯りを見ていない。あれだけ車がとまっていたのにもかかわらずだ。
停電だからと思っていたが、ヘッドライトは停電には関係ない。
そのうえ、あれだけ暗かったにもかかわらず「停電だよ」と教えてくれた隣の車の運転手の手元のものが”缶コーヒー”と認識できたのは何故か?
今となってはすべてが闇に中だが、タヌキに化かされたとしたほうが面白いと思うことにしよう。
*興味のある方はチェッカーズカットで検索を
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